88 「命もいらず 名もいらず」。

当時蕎麦は約十六文(五百円)・お寿司は六十文(二千円)・床屋が千円前後と換算されていますのでとても生活できる金額ではありません。歌舞伎を観る末席席でも四・五千円したと言われ特等席は六万円から七万円以上したということですから現在の相撲の桟敷席よりも高かったということになります。千両役者と呼ばれる歌舞伎役者はそれ以上稼いでいたということになり、大変な高額所得者ということになります。逆に中間は身分的には威張れる立場にありましたからそう揶揄されていたのでしょう。またそこからなにかをやったら別途の手間賃や心づけのようなチップ制度が今よりもあったのではと想像できます。そして当時の下級武士や農民は強い身分制度で、石垣のように強固に固められていた自分たちの身分も、変えようと強く意識していた者たちも多くいたはずです。そうして逆に君臨したのが彼らだったということになります。そういう意味では文明開化の外圧は日本の国民ためには身分の解放を招いてよかったということになります。しかし今度は彼らがヨーロッパの身分制度を真似して、華族という新しい特権階級を作ったということになるのですから、人間の心理はなかなかに理解できませんし人間とは結局似たようなことを繰り返すのだと思案することもあります。たとえば西郷隆盛のように「敬天愛人」「命もいらず名もいらず」という人物ならまた別の国家が生まれたかもしれません。わたしたちが西郷隆盛が生きていたらどんな国なっていたかと思うのは、彼が心を打つ言葉を残しているからということになります。彼の言葉が生きる指針になると感じているからです。