39 なぜ無神論者?

早く国家造りをやろうと急ぎすぎたせいで、わたしたちがそれまで持ち得ていた文化を破壊したという思いは、個人的には拭いきれない感情があります。日本は文化的に豊穣でもったいないことをしたという気持ちがあります。わたしたち日本人が意識を代えさせられたのはこの廃仏毀釈と戦後のアメリカから導入された「民主主義」ではないかと考えます。多くの人たちが現在でも無神論者と言うのも本当は弾圧のせいですし、明治から戦後まで仏教と他の宗教と融合した新しい宗教が多く生まれたのもそのことが要因とも言えます。また当時の宗教団体は驚くほどの政治献金をしています。潰されないようにあるいはこれ以上弾圧を受けないようにとの苦心です。そしてもっとも国民を畏怖させるものとしての一番の弾圧は大逆事件」ではないでしょうか。今日では検察によるでっち上げの事件だと多くの人は認識していますが、一九○八年から施行されるようになった大逆罪は政治的弾圧に容易に使われるようになりました。その大逆事件は一九一○(明治四三年)に長野の社会主義者・宮下太吉が爆破物取締罰則違反で逮捕され、その後、幸徳秋水・大石誠之助・管野スガら二十六名が逮捕され、証拠不十分のまま翌年に十二名の死刑者を出した事件です。彼らの多くは社会主義者無政府主義者キリスト教徒らで、天皇君主国家を揺るがすと思われた人々です。国民は一段と弾圧に怯え無宗教だという言葉が歩き出したのです。維新から敗戦まで世界は激動の時代で日本もその中に巻き込まれましたし、そうならざるをえなかったのですが、いつの時代も悲劇はなんの罪もない人々に襲いかかってきます。この百五十年で日清・日露・大東亜戦争と悲惨な時代が続き、国民で犠牲を受けなかった人々はいないほどです。